3か月間のメンタル休職の後に主治医の復職可との診断書を提出のうえで職場復帰することになった。
とりあえずは本格勤務に戻れるか様子を見るためとして半日勤務を命じられた。
様子見勤務から本格勤務に戻れる時期及び判断基準が不明確なこと、及びこの間の賃金が半額に減額されることから、将来が不安だ、との相談を受けた。
うつ病など心の病で休職をする労働者は増えている。
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)などを参考にして、心の病により休職した従業員が復職する際、勤務時間の短縮や作業負荷の軽減を行い、段階的に元の業務に戻す軽減勤務の対応をとる企業もある。
既に職場復帰の支援制度として整備されている場合は、決められたルールに従って実施することになる。
復職に際してのルールが整備されていない場合や休職者が休職に入る前に十分説明されていない場合、復職時にトラブルとなることが少なくない。
軽減勤務措置の期間や賃金については法律に定めがあるわけではない。
まず、軽減勤務措置が、休職中の復帰訓練(試し出勤)なのか、休職終了後(すなわち職場復帰後)の軽減勤務なのかを確認する必要がある。
休職中の訓練(試し出勤)ならば、そもそも勤務ではないので使用者には賃金支払いの義務はない。
当然ながら、会社の指揮命令下で業務を行わせることは許されない。
会社の指揮命令下で実施される軽減勤務だとすると、賃金支払い義務が発生する。
就業規則などに規定がない場合、軽減勤務中、勤務時間の短縮または業務の軽減等を理由として給与を減額するときは、給与の算出方法を明確に取り決め、個別に本人に説明しその納得と同意を得ておく必要がある。
また、軽減勤務の期間についても同様に目安を定めておくことが求められる。(直井)
相談者は、社長と従業員3名で事業を運営している軽貨物運送会社で管理的業務を含め事務全般を担当していたところ、社長から請われて取締役に昇任した。
給与は役員報酬と変わったが、担当する業務内容にはとくに変更はななかった。
本件会社は、株式会社ではあるが、実質は社長が発行済み株式のすべてを所有する個人事業だ。
1年ほどは社長との関係もうまくいっていたが、事業の拡大にともない会社の運営方針をめぐり社長と意見対立が目立つようになったことから、取締役は降りることになった。
当初の約束どおり従業員に戻るつもりでいたが、社長は、信頼関係が壊れた以上、従業員に復帰することは認めないという。
どうにかならないかという相談があった。
本件は、従業員兼務取締役の解雇問題だ。
「従業員兼務取締役」とは、肩書上の地位が「取締役」でありながら、同時に一般の従業員としても評価できる人のことをいう。
「取締役」と会社との関係は「委任契約」であり、「労働者」と会社との間の「労働契約」とは異なるが、従業員兼務取締役は、実質的には委任契約と雇用契約が併存した状態といえる。
実質は個人事業のような会社では、取締役とは名ばかりで、主として従業員の業務を行っている場合がある。実態上、会社代表者の指揮命令を受けて労務に従事し、その労務に対して従業員としての報酬Mを受けていると認められれば、労働契約法上の「労働者」に(も)当たることになる(菅野和夫「労働法」(第12版)182頁)。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定し、会社の恣意的な解雇を厳しく制限している(「解雇制限法理」)。
従業員兼務取締役には、従業員としての地位に基づいて労働契約法16条の解雇制限法理が適用される。
したがって、役員を辞任しても(ないし解任されても)、従業員としての地位は失われることはなく、解雇相当となる理由がない限り、賃金支払いなどの保護を継続してうけることができる。
社長のいう「信頼関係が壊れた」は委任契約の解約の理由とはなるが、労働契約の解約理由としては不十分といわざるを得ない。(直井)