ほぼ決まったと考えていた採用が突然撤回されたという相談があった。
ネット上での募集に応募し、会社の面接を経て、会社から入社依頼の連絡がメールであった。
他の応募先の面接が予定されていたこと及び採用条件の説明が大まかなものであったことから、相談者は具体的な採用条件の提示を求めるとともに1週間の回答の猶予を依頼したところ、会社から具体的な採用条件(所属部署、正社員であること、給料および手当、勤務時間、休日、賞与など)の連絡とともに、入社の可否についての回答を1週間待つとの連絡があった。
相談者は提示された採用条件について、労働基準法の定めとの関係で疑問に感じたことをメールで質問したところ、この質問が気に触ったのか、会社社長から「入社頂きたい旨の連絡を撤回する」旨のメールがきた。
この会社の対応に納得できない相談者は、金銭補償の要求を伝えたが、会社は労働契約がいまだ成立していないことを理由に金銭補償を拒否した。
というのが相談者の話す経緯である。
確かに、上記経緯からすると、内定など労働契約が成立しているとは言い難い面があるのは事実である。
しかし、民法523条は、承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができないと規定する。
すなわち、会社が承諾期限前に契約の申込みを撤回することは許されない。
したがって、相談者が期限までに承諾の回答をすれば労働契約は有効に成立することになる。
もっとも、本件ではすでに承諾期限が過ぎてしまっているのでこの対応は取りえない。
しかし、違法な申込み撤回を理由に損害賠償を求めることは可能である。
この場合請求可能な損害は以下のとおりである。
・積極的損害:採用面接など採用手続きに相談者が支出した金銭・労力など。
・消極的損害(逸失利益):新たな就職先が決まるまでに空白の日数を費やすことになったことによる失った賃金相当額。
・精神的損害(慰謝料):違法な申込み撤回で被った精神的被害の賠償。(直井)