東京都ではコロナの新規感染者が1日50人前後の高止まりが続いている。
しかし、そんな中でも政府の緊急事態宣言の解除(5月25日)から1か月が過ぎ、自粛要請の緩和も進み徐々に日常が戻りつつある。
ほっとユニオンも、緊急事態宣言中は新規の対面相談を中止し労働相談を電話相談に限定するなどの対策をとった。
しかし、緊急事態宣言の解除後は日常の組合活動に戻りつつある。
「カフェでの気楽な労働相談」を再開し、会社との団体交渉も始まった。
団体交渉手続きは、相談者が組合に加入したことを通知し、団体交渉を申し入れる「組合加入通知(兼)団体交渉申入書」を会社あてに郵送することから始まる。
つい最近の事例であるが、会社から受任したとの弁護士の返事とともに、IT機器を使ったZoom会議による団体交渉の提案があった。
新型コロナウィルス感染防止対策のためだ。
コロナ禍のなか、Zoom会議はテレワークの手段として急速に普及しつつある。
複数人が一同に集まることなく、パソコン画面を通じて会して、各人が意見を出し合い、情報を共有することができる便利な手段である。
確かに便利な手段とは思うが、団体交渉の手段として利用することには躊躇を感じる。
とりわけ初対面同士の話し合いには不向きだ。
対面での話し合いが生み出すものに信頼関係の醸成がある。
また、対面ならば一方の発言を契機に解決へのアイデアが広がる可能性もある。
オンラインでの話し合いは、双方が基本的な立場を主張し合う形式的な議論に陥りがちである。
団体交渉は参加各人が意見を述べそれを集約するためのものではなく、立場の異なる者の間の譲歩を前提とした話し合いである。
団体交渉は、双方が譲歩を重ねつつ合意を達成することを目標とするものである。
歩み寄りのための双方の譲歩を引き出すには、対面での接触により信頼関係を醸造することが重要である。
Zoom会議には不向きだと考える。
なお、先の団体交渉は、参加者を絞り、1回の交渉時間を短くすることで対面交渉として実施されることとなった。(n)
新型コロナ対応休業支援金(以下「休業支援金」という。)は、6月12日に成立した雇用保険法の臨時特例法によって創設された、休業させられた労働者が直接国に申請できる給付金制度だ。
コロナ禍のなか労働者を休業させた企業が雇用調整助成金をあえて利用せず、労働者に休業手当が支払われないというケースが相次いだ。
とりわけ中小企業で目立った。
申請手続きの煩わしさや手持ち資金が逼迫したことなどのため労働者への休業手当の支払を避けたとみられる。
休業労働者が国に直接請求できる給付金制度を求める声が高まった。
休業支援金の対象は、新型コロナの影響で2019年4月1日から9月30日までの間に休業させられたにもかかわらず、会社から休業手当の支払いを受けられなかった中小企業の労働者だ。
休業日数に応じて休業前の賃金の80%を月額33万円を上限に支給される。
申請には、休業日数や、休業前の賃金額を証明するための資料の提出が必要となる。
これらの資料は通常企業に作成・保存義務が課されている。
労働者が求めてもあえて休業手当を支払わなかった企業は、必要な証明資料の提出協力をも面倒だと応じない可能性がある。
必要な証明資料の提出に企業が協力しない場合、ハローワークなどの行政機関が直接企業を指導することが求められる。
証明資料の提出をすべて申請者である労働者の責任にされたら、自ら必要な資料を収集できる労働者以外にとって、折角の制度も絵に描いた餅になってしまうおそれがある。
日頃から税理士・社会保険労務士などの専門家と接する機会の多い企業経営者と違って、労働者には役所への手続に不慣れな者が多い。
労働者を申請者とする給付金制度においては、労働者の申請手続きを積極的にサポートする制度運用が望まれる。(直井)
楽器大手ヤマハの子会社が展開する「ヤマハ英語教室」の講師でつくるヤマハ英語講師ユニオンは、会社側が、個人事業主扱いにしていた講師との委任契約を見直し、直接雇用する方針を組合に提示したと発表した(20年6月8日「読売新聞オンライン」ほか)。
勤務場所や勤務時間、仕事の進め方などについて会社に管理され、働き方の裁量がほとんどない労働者が業務委託契約・委任契約など労働契約以外の契約を締結して個人事業主として労務を提供とする働き方がある。
「名ばかり事業主」である。
働き方の多様化という喧伝の下、学習塾の講師や配達員など様々な職業で「名ばかり事業主」が増えている。
コンビニ店長などの「名ばかり管理職」は、残業代の支払い義務を免れる目的で企業により多様されたものだった。
「名ばかり事業主」も同様に労働法規の保護規定を免れる目的で企業により使われている。
労基法上の残業代はもとより、社会保険、労働保険の保険料の支払い義務を免れるメリットが使用者にある。
そもそも、労働者概念の基本である労働基準法上の労働者にあたるか否かは、契約の形式ではなく、労務提供の実態で判断されるものである。
使用者の指揮命令下で労務を提供しているか否かが判断基準となる。
しかし、裁判所の判断を仰ぐためには時間とお金がかかるため労働者個人で争うことは事実上困難だ。
本件の特徴は、委任契約という働き方の形式に疑問をもった講師が仲間を集め労働組合を結成して直接雇用化を求めての1年にわたる交渉の結果であることにある。
コロナ騒ぎは仲間を増やす追い風となった。
コロナ騒ぎのなかでさまざまな救済措置からもれ落ちる働き手がある。
労基法の定める休業手当はもらえず、さりとて税法上は給与所得者として扱われているため個人事業主を対象とする持続化給付金の対象ともならない。
コロナ禍は制度の谷間にある無権利な働き方を顕在化させた。
このことがより多くの仲間を集めることになり、結果として会社の譲歩を引き出したといえる。(n)
休業手当のみの給与明細をみて愕然としたとの相談があった。
給与の締め切り日(毎月20日)・支払日(当月25日)の関係で対象期間の全てが休業日となったのは5月25日に振り込まれた給与(4月21日から5月20日までの分)が初めてだった。
休業手当は賃金の6割と聞いていたので、4割の減額は覚悟はしていた。
しかし、振り込まれた額は予想を遙かに下回った額だった。
労働基準法が定める休業手当(平均賃金の6割)を簡略化して計算すれば以下のとおりとなる。
かりに、月給30万円、勤務日が月20日だとする。
平均賃金(1日分)は30万円÷30日=1万円に、そして1日分の休業手当は、1万円×0.6=6千円となる。
1か月全てを休業すると、1か月分の休業手当として支払われるのは
6千円×20日(勤務予定日・休業日)12万円となる。
通常の給料の4割にしかならない。
このように低額となるのは、平均賃金を計算する際には公休日も含め暦日30日で割るのであるが、休業手当の対象日は所定労働日(勤務予定日)のみで公休日(土曜日、日曜日、祝日など)は対象とならないからだ。
ここから社会保険料(厚生年金、健康保険)が引かれるから、額面は10万円を割る。
こんな状態が長く続いたら生活は破綻する。(直井)