次のような相談があった。
相談者は、アルバイトを含めて従業員2、3名の零細企業におけるたった一人の正社員であるである。
零細企業ではよくみられることだが、採用に際して契約書(または雇用条件通知)の交付もない。
社長から経営が苦しいので来月から賃金を切り下げるといわれた。
それに対し、相談者が、減額された賃金では生活ができない、賃金を切り下げるなら辞めるほかないと言ったら、社長から、では辞めて下さいといわれ、そのままずるずると退職扱いになってしまった。
社長からは時を置かず会社のカギの返還や健康保険証などの返還を求められた。
しかし、退職願いの提出を求められたわけでもない。
不当解雇だと、解雇理由証明書を求めたら、解雇ではない合意解約だと言われた。
よくあるパターンである。
合意退職か解雇かが争われる場合、最終的には裁判で決着をつける以外方法はない。
不当解雇だとして労働者が裁判で争う場合、解雇されたことは、労働者側が証拠を示して立証する必要がある。
本件のように手続きがすべて口頭でなされため、解雇通知書など客観的な証拠がない場合、社長との発言のやり取りなど面倒な立証の必要が生じる。
会社から賃金の切り下げを迫られた場合、そんなら辞めてやると啖呵を切るまえに一呼吸おいて冷静に考えてみることが大切だ。
一方的な賃金の切り下げには同意しないこと、退職する意思のないこと、をはっきりと社長にいうことが大切である。
後で不当解雇として争うことを考えているならば、書面はなくとも、賃金切り下げに応じないならば解雇するとの社長の発言は明確にしておくことが必要である。(直井)
正社員と非正社員の待遇格差が、労働契約法が禁じる「不合理な格差」にあたるかが争われた二つの訴訟(ハマキョウレックス訴訟、長澤運輸訴訟)の判決が6月1日、最高裁判所で下された。
ともに非正社員のトラック運転手が正社員との待遇の格差の是正を求めた訴訟だ。
最高裁の判断は分かれた。
手当ての有無が主に争われた、ハマキョウレックス訴訟では、正社員に支払われる5手当(無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当・皆勤手当)が、同じ職務の契約社員に支給されないのは「不合理」と判断した。
一方、定年後に再雇用された嘱託社員3名が、定年前と同じ業務に従事しているのにもかかわらず賃金が切り下げられたのは違法だと争った、長澤運輸訴訟では、正社員との待遇格差の大半を容認した。
労働契約法20条は、雇用期間の定めの有無で労働条件に不合理な格差をつけることを禁じている。
不合理な格差にあたるかどうかは、①仕事の内容や責任の程度、②当該職務の内容や配置の変更の範囲、③「その他の事情」を考慮して判断される。
最高裁は定年退職後の再雇用である長澤運輸訴訟では、「その他の事情」として「嘱託乗務員は定年退職後に再雇用された者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる」などの事情を摘示し、一定程度の処遇の低下は「不合理な格差」には当たらないと判断した。
労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は法律の文言によって一義的に決まるものではなく規範的評価を伴うものだ。
したがって、正規・非正規の「不合理な格差」を是正するためには、働く現場で異議を申し立て続けることが不可欠だ。(直井)