障害者雇用枠で入社した労働者から相談を受けた。
面談をした感じでは健常者と何ら変わるところは感じられなかったが、発達障害とのことである。
相談者の話しでは、採用時の面接で自らの障害との関係で丁寧なOJTを人事担当者に依頼した。
しかし、配置された職場は全体的に忙しいため、指導役の社員を含め皆各自の業務に手一杯で、判らないことを教えてもらおうにも、頼みにくい状態である。
相談者はこれを平成28年施行の改正障害者雇用促進法の定める合理的配慮義務違反として法的に争いたいとの意向であった。
障害者雇用を使用者の善意に頼るのではなく、働くことを権利として障害者に保障する法の建前を正面から実現しようという意気込みである。
確かに、障害者雇用促進法は、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮義務)を使用者が負うと規定している。
しかし、「使用者の過度な負担とならない限り」との但し書き付きである。
合理的配慮を法的な権利として裁判手続きで実現するには、使用者の「過度の負担」とならないという高いハードルがある。
さらに、本件相談の解決の難しさは、身体障害や知的障害と異なり、一見する限りでは健常者と異なるところが認められない発達障害(精神障害)ゆえの問題もある。
特別扱いすることに対する、職場の先輩・同僚の理解の得にくさがあるからである。(直井)
雇用期間3か月の労働契約書を交わした労働者が期間の途中に解雇を言い渡され相談に来た。
使用者は、雇用期間3か月はすべて試用期間であり、解雇権濫用法理の適用はないと主張している。
3か月間の雇用期間の全てが試用期間という労働契約はどのような法的な意味をもつのだろうか。
判例(神戸弘陵事件最高裁判決)によれば、雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、当該期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解される。
この判例法理に従えば、上記契約は3か月間の試用期間付きの正社員契約ということになる。
また、一般的に試用期間付き労働契約は、解約権留保付きの労働契約であると解されている。
しかし、試用期間中であろうと、使用者は解雇権濫用法理の適用を受けないで解雇の自由を有するわけではない。
上記最高判決はこの点について要旨以下のように判示する。
試用期間における留保解解約権の行使が許される場合とは、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるものの、当初知ることが期待できなかった事実等により、引き続き雇用しておくことが適当でないと判断できるだけの客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認することができる場合に限られる。
先の相談者には、解雇の無効を理由として正社員としての地位の確認を求めることが可能であるとアドバイスをした。
解雇権濫用法理の適用を免れ、解雇の自由の確保を目的とする「雇用期間=試用期間」の契約は、試用期間付き正社員契約と解されることから、むしろ労働者にとって有利な契約となる可能性がある。 (直井)