解雇について争っている労働者が使用者に対して離職票の交付の手続きを求めたら、代理人を名乗る弁護士から、以下の内容の通知が来たとの相談があった。
(会社側弁護士からの通知)
「本件退職は、貴殿の意思で退職したものであり、会社都合(解雇)による退職ではありません。そのため、会社都合(解雇)を内容とする離職票等の発行をすることは、事実に反することになりますので応ずることはできません。」
弁護士は2つの点で誤っている。
①離職証明書と離職票を混同していることと、②離職理由について労使間で争いのある場合の取り扱い
①離職証明書と離職票
離職証明書は、使用者が離職理由などを記載のうえで資格喪失届けに添えてハローワークに提出する書類である。
離職票は、離職証明書と複写式で一体となっている書類であり、ハローワークから使用者を通じて離職者に交付することとなっている。
離職票は、退職者が失業手当ての申請の際に不可欠な書類である。
②離職理由について労使間で争いのある場合
使用者は、「離職証明書」「⑦離職理由欄」に使用者の主張する離職理由を記載した上でハローワークに資格喪失届に添えて提出する。
他方、離職者は、使用者を通じてハローワークから交付された「離職票ー2」「⑯離職理由欄」に離職者の主張する離職理由を記載した上で失業手当ての申請の際にハローワークに提出する。。
・ハローワークはそれぞれの主張を把握した上で離職理由の判断をする。
したがって、離職理由についての主張の違いは、使用者が離職票交付手続き(離職証明書のパローワークへの提出)を拒否する正当な理由とはならない。(直井)
事務を処理する速度が遅いなど能力不足を理由に解雇を言い渡された事務職員から相談があった。
相談事は不当解雇についてではなく、能力不足の理由による会社都合退職は転職活動に不利になるかとの心配であった。
転職先の採用面接において、離職理由を尋ねられたときの対応の相談です。
相談者は退職会社がハローワークに提出する書類を気にしていた。
しかし、会社が被保険者資格喪失届とともにハローワークに提出する離職証明書(離職票)には単に離職理由欄の「解雇(重責解雇を除く)」にチェックが入るのみで、具体的な離職理由は記載されません。
そもそも、採用面接で離職票の提示を求められることはありません。
また、かりに転職先の会社が退職会社に離職の事情を問い合わせても、従業員の個人情報であることから、退職会社が照会に応ずることは通常は考えられません。
採用面接で前職の退職理由を聞かれたら、社長(上司)と折り合いが悪くなり転職を進められたこともあり退職することになったなど、当たり障りのない理由を述べれば足ります。
それ以上、事細かに追求する面接官はいません。
もっとも、採用面接で積極的な嘘をつくことはお薦めしません。
横領など理由とする懲戒解雇などの不名誉な退職事由でなければ、会社都合退職(普通解雇)であることを必要以上に気にすることはありません。(直井)
辞めてくれないかといわれた、解雇されると履歴が汚れるので解雇は避けたい、解雇を言い渡されるくらいならば退職することを考えている、しかし、離職票には自己都合ではなく会社都合として記載して欲しいという相談があった。
解雇されたら履歴が汚れる。
転職への悪影響が心配だ。
転職の面談の際、前職の離職理由を解雇といいたくない。
以上のように考える労働者は少なくない。
使用者は、従業員のこのような不安を逆手にとって、退職に応じないならば、解雇すると脅し、執拗に退職願いへの署名・押印を求める。
しかし、使用者の狙いは、後で解雇の適法・違法が争われるリスクを避けることにある。
他方、何事も金銭換算したコスパ・損得で判断したがるネット情報の影響か、離職票の記載に会社都合を求める労働者は多い。
会社都合の離職が失業手当の給付において有利であるからだ。
転職など自己の都合により離職した場合は7日間の待機期間にプラスして給付制限期間(3か月)がある。
解雇など会社の都合により離職した場合は受給資格決定後7日間の待機期間が経過すれば給付を受けられる。
収入の道をたたれた退職者にとって3か月間も給付を待たされることのダメージが大きい。
解雇の不名誉は避けたい、他方、失業手当の関係では会社都合(解雇、退職勧奨など)としたいと考えているのが退職を迫られた多くの労働者の本音といえる。
そのため、ほっとユニオンは、解雇が争われた案件の和解において解雇撤回・円満退職で解決した場合、「会社都合による退職」という文言を合意書に入れることにしている。
しかしながら、そもそも、非行行為などを理由とする懲戒解雇でないかぎり、解雇を言い渡されることは労働者にとって必ずしも恥ずべきことではない。
納得できない解雇ならばなおさらである。
弱気にならず、納得できないならば、安易に退職願いへの署名・押印はしないで、まず、専門家に相談することを薦める。
安易に任意の退職に応じないことによって、同じ辞める結果になるとしても、使用者の譲歩を引き出し、より有利な退職条件を得ることが可能になる。
強いことを言っても、使用者の本音は訴訟リスクを回避するために解雇を避けることにある。
使用者にとっても正式に解雇を言い渡すことは怖いものなのです。(直井)
使用者は争いを残さないために、または、ハローワークの助成金を申請しているなどの理由から、辞めてもらいたい従業員に対して、明確な解雇を言い渡さないで、暗に退職を促すことがある。解雇されるとあなたの経歴に傷がつく、自主退職のほうが転職するのに有利だなどと親切ごがしに言ったりする。
退職を勧奨された労働者は辞めることには異議はなくても自主退職を拒否することがある。
自主退職(自己都合退職)は失業給付の請求などで不利益を受ける場合があるというネット情報の広がりのためである。
望んでいない自主退職を断固拒否することは賛成である。
明確に解雇を言い渡されるまで断固出勤しつづけるという選択である。
でも、職場に居づらいことから、出勤せずの状態が続き宙ぶらりんの状態になっている者もある。
他方、会社は、従業員が退職した場合、雇用保険被保険者資格喪失届けともに雇用保険被保険者離職証明書をハローワークに提出する義務がある。その際、ハローワークから退職届けなど「退職理由を確認できる書類」を添付資料として要求される。
従業員の退職届けをハローワークに添付書類として提出できないことから、会社がハローワークでの処理を先延ばしにすることもある。
このように自主退職したのか解雇されたのか曖昧な状態で相談にくる労働者がある。
自主退職する意思がないならば、まず、退職したわけではないこと及び体調不調などの理由で出勤できない状態であることを会社に報告することを勧める。
無断欠勤自体が解雇理由になってしまうからである。
相談者が職場で置かれている曖昧な状態を明確にし、その後に具体的な解決方法の相談に入ることになる。(直井)
相談内容を分類してみると、納得できない理由で解雇されたり、退職を迫られている人からの相談が相変わらず多い。
会社との交渉において何を要求したいか相談者に尋ねると、多くは解雇撤回の交渉ではなく退職を前提とした退職条件の交渉を望む。
少人数の職場では、一旦悪化した社長や上司との人間関係の修復が困難なため、雇用の継続や復職を求めることが事実上難しいという事情がある。
退職条件として何を要求するかと尋ねると、転職にともなう生活費の補償などの金銭要求を別とすると、「会社都合」の退職にしてくれというのが多い。
ハローワークでの失業手当の給付日数を考慮してのものと思われる。
しかし、給付日数を決める大きな基準は、年齢・勤続年数を別とすれば、「特定受給資格者」(ないし特定理由離職者)に該当するか否かである。
特定受給資格者とは、離職理由が倒産・解雇等により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた受給資格者をいう。
やむを得ない理由のある退職の場合は、解雇された場合と同じく特定受給資格者となる。
具体的には、長時間労働、上司・同僚によるパワハラ・セクハラ、退職勧奨などにより退職を選択せざるを得なかった特別の事情が認められる者も特定受給資格者となる。
たとえ「一身上の都合により退職する」との退職願いに署名・押印したとしても、特定受給資格者(ないし特定理由離職者)に該当するか否かをハローワークに相談してみることをすすめたい。
(直井)