円満に退職したのではなく、退職時になんらかのトラブルがあった場合、退職後、会社に対して最後の給料の支払いを求めると、「会社に取りに来い」といわれることがある。
会社の嫌がらせである。
会社に取りに行くのが怖いので、金融機関の口座への振り込みを求めたが断られたとの相談があった。
従前の給料が金融口座への振り込みという方法で支払われていた場合は、従来どおりの支払い方法による支払いを求めることは法的に十分根拠のある要求だ。
振り込み拒否は賃金不払いと評価され、労働基準法(24条)違反として労働基準監督署へ違法行為の是正を求める申告(労基法104条1項)をすることができる。
問題は従前から会社での手渡しの方法により給料が支払われていた場合だ。
そのような場合、労働基準監督署に相談にいっても、会社が給与の支払い自体をしないと言っているわけではないとして、取り合ってくれないことが多い。
しかし、退職の原因が小規模な事業所内での経営者のパワハラ・セクハラであり、職場に行くことにより更なる被害を受ける危惧があるときは別に考える必要がある。
そう解さないと、労働者の泣き寝入りを狙う会社の思い通りになってしまう。
そもそも、会社の給料支払い債務が会社の所在地で労働者が取り立てる「取立債務」と解されている理由は賃金債権の発生原因の性質からだ。
労働契約における「賃金債権」は、労働者が使用者の下で労働力を提供し、その労働力を提供した対価として「賃金」の支払いを求める権利である。
賃金債権の以上の内容から、使用者の賃金支払い債務は、一般的には、当事者間の合理的な意思解釈として、労働者が労働力を提供した「使用者の営業所等」で賃金の支払いをする「取立債務」と解されているのだ。
会社に取り立てに来いとの会社の主張の支える理屈となる。
しかし、賃金を受け取りに会社に行くことにより更なるセクハラ・パワハラの被害を受ける危険があるなど特別の事情がある場合は別に解されるべきだ。
そのような事情が認められる場合は、労働者が、会社での受け取りではなく、口座振り込みによる支払いを求めるのは当然の権利といえる。(直井)
賃金は後払いが多い。
たとえば、「毎月月末締め・翌月15日払い」など。
民法(624条)に賃金後払いの原則が規定されていることから、そのこと自体は違法ではない。
バックレされた使用者が怒って、退職時に支払うべ賃金を支払わないことがある。
退職後の支払い期日になっても振り込まれていないことで判明する。
賃金の未払い分を足止め策として利用していると思われる業界もある。
ガールズバーなどで給与明細もなく日給月給制で口座振込ではなく現金で給与を手渡しているところで発生しやすい。
退職後、営業時間である夜に未払い分の賃金を受け取りに店に出向くのは勇気がいる。
受け取りにいっても、その場にいる店長は雇われ店長で埒が開かない。
契約書を取り交わさない口頭での契約が多いため、従業員には未払い賃金を請求すべき使用者が誰かすら不明であることが多い。
そのような場合、管轄の保健所で飲食店の営業許可を受けている施設一覧を調べれば、営業者が誰であるかを確認することができる。
ほっとユニオンはそのようなお手伝いもしています。(直井)