3か月の派遣契約を2年ほど更新し続けてIT業務担当として働いていた派遣社員から相談を受けた。
「派遣先の体制変更」を理由として次回の更新をしないという通知を派遣会社から受けた。
同じ職場に派遣されている同僚の派遣社員は2名いるが、雇い止めを言い渡されたのは相談者だけらしいとのことである。
派遣社員は3か月とか6か月とか比較的短期の契約を更新し続けながら働く有期契約のものが多い。
いつ契約が打ち切られるかとの不安を抱えながら働いているものは少なくない。
有期雇用であっても使用者は恣意的に更新拒否できるわけではない。
労働契約法19条は有期契約の更新拒否にも解雇と同様に正当な理由が求められるという「雇い止め法理」を明文化したものだ。
すなわち、労働者が更新を期待することについて合理的な理由がある場合には、使用者が当該労働者の更新を拒否することに対して、正社員に適用される解雇制限法理に準ずる高いハードルをもうけている。
しかし、使用者と裁判で争うためには、まず使用者が主張する雇い止めの理由を明らかにすることが不可欠である。
そのために、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示357号)は、労働者が雇い止めの理由について証明書の請求をした場合には、使用者は遅滞なく証明書を交付しなければならないと定めた。
この規定により、更新拒否に納得できない有期雇用労働者はまず、解雇理由証明書を請求することになる。
正社員が解雇の無効を争う準備として、解雇理由証明書(労働基準法22条)をまず使用者に請求するのと同じ手法である。
使用者の主張する理由を書面(ないしメール)で明らかにさせることは重要である。
一方、派遣社員は雇い主(派遣会社)と仕事の指揮命令をする会社(派遣先)が別々である間接雇用である。
派遣先の都合を理由として派遣会社から契約の更新拒否を言い渡されても、直接派遣先に理由を問いただすことが事実上困難である。
そのようなことから、納得できなくても更新拒否を受け入れざるを得ないと諦める派遣社員は多い。
しかし、有期雇用の派遣社員も一般の有期雇用者と同様に労働契約法19条(雇い止め法理)の保護を受ける。
本件においては、相談者に「派遣先の体制変更」の具体的な内容および同僚の派遣社員2名の取り扱いについて派遣会社に説明を求めることをアドバイスした。(直井)
派遣労働者は、派遣元事業主に雇用されながら、派遣先から指揮命令を受けて労働に従事するという変則的な形態で働かされる、典型的な非正規労働者の一つです。
派遣法(32条)は、派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、あらかじめ、当該労働者にその旨を明示しなければならないと、定めている。
派遣で働くのか否かを雇い入れ前に明示することは、労働条件明示の基本のキといえる。
この点が不明確のままで働いていた労働者からの相談があった。
最初の電話相談の段階では、出向ないし異動についてのトラブルの相談ということだった。
直接会って話しを聴くとちょっと違うようだ。
相談者は、「正社員登用あり」のネット求人広告の宣伝文句に魅力を感じて、応募し、「正社員登用ありの契約社員」として採用された。
就労場所は、会社の顧客先企業のコールセンターである。
このコールセンターから別の企業のコールセンターへの就労場所の変更のことを相談者は異動と言っていた。
相談者は、将来、会社において通常の事務職としての正社員への登用があることを期待して働いていた。
採用時に取り交わされた雇用契約書には、コールセンター業務の記載はあるが、派遣のハの字も記載がない。
おそらく、会社のいう正社員登用とは、期間の定めのない常用型派遣労働者への登用ということなのだろう。
しかし、一般的には、正社員という呼称は、非正社員=非正規(派遣労働者を含む)の反対の呼称として使われている。
相談者が誤解したとしても、責められない。
責められるべきは、ネット求人広告のうたい文句と採用時の会社の説明不足である。(直井)