楽器大手ヤマハの子会社が展開する「ヤマハ英語教室」の講師でつくるヤマハ英語講師ユニオンは、会社側が、個人事業主扱いにしていた講師との委任契約を見直し、直接雇用する方針を組合に提示したと発表した(20年6月8日「読売新聞オンライン」ほか)。
勤務場所や勤務時間、仕事の進め方などについて会社に管理され、働き方の裁量がほとんどない労働者が業務委託契約・委任契約など労働契約以外の契約を締結して個人事業主として労務を提供とする働き方がある。
「名ばかり事業主」である。
働き方の多様化という喧伝の下、学習塾の講師や配達員など様々な職業で「名ばかり事業主」が増えている。
コンビニ店長などの「名ばかり管理職」は、残業代の支払い義務を免れる目的で企業により多様されたものだった。
「名ばかり事業主」も同様に労働法規の保護規定を免れる目的で企業により使われている。
労基法上の残業代はもとより、社会保険、労働保険の保険料の支払い義務を免れるメリットが使用者にある。
そもそも、労働者概念の基本である労働基準法上の労働者にあたるか否かは、契約の形式ではなく、労務提供の実態で判断されるものである。
使用者の指揮命令下で労務を提供しているか否かが判断基準となる。
しかし、裁判所の判断を仰ぐためには時間とお金がかかるため労働者個人で争うことは事実上困難だ。
本件の特徴は、委任契約という働き方の形式に疑問をもった講師が仲間を集め労働組合を結成して直接雇用化を求めての1年にわたる交渉の結果であることにある。
コロナ騒ぎは仲間を増やす追い風となった。
コロナ騒ぎのなかでさまざまな救済措置からもれ落ちる働き手がある。
労基法の定める休業手当はもらえず、さりとて税法上は給与所得者として扱われているため個人事業主を対象とする持続化給付金の対象ともならない。
コロナ禍は制度の谷間にある無権利な働き方を顕在化させた。
このことがより多くの仲間を集めることになり、結果として会社の譲歩を引き出したといえる。(n)
マッサージサロンとの間で締結した業務委託契約に基づき働くマッサージ師から相談があった。
お客からサロン運営者である本部にクレームがあり、その調査のため3週間サロンで働くことを禁じられた。
調査の結果、問題となる行為は認められなかったことから、今は業務に復帰しているのだが、働けなかった3週間の休業補償がないとの相談だ。
報酬は売上げに見合った歩合制ではあるが、シフトに従って週4日勤務し、サロンで働く時間帯も決められている。
労働基準法の適用があれば、最低限6割の休業手当(同法26条)が補償されることになる。
取り交わした業務委託契約書には、労働基準法ほか労働関係法の適用を受けないことを明記した条項がある。
しかし、本件のような「業務委託契約書」を取り交わしていたとしても、そのこと自体から直ちに労働基準法上の労働者に当たらないと判断されるわけではない。
労働基準法上の「労働者」であるか、業務委託契約における独立した「個人事業主」であるかは、契約の形式いかんにかかわらず、実質的に判断される。
すなわち通常の契約の当事者間における対等な関係ではなく、実質的に契約の相手方に従属している関係(「使用従属性」)があれば労働基準法上の労働者であると判断されることになる。
「使用従属性」が認められる具体的な要素としては以下のものがある。
・仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がないこと、
・業務遂行上の指揮監督の程度が強いこと、
・勤務場所・勤務時間が拘束されていること、
・報酬の労務対償性があること、
・機械・器具が会社負担によって用意されていること、
・専属制があること、
相談者には以上のことを説明したうえで、労働基準法上の労働者に当たる可能性が高いので諦める必要はないことをアドバイスした。
労働者保護法の規制を免れるため労働者を個人事業主として業務委託契約で使用する使用者はあとをたたない。
多様な働き方(=多様な働かせ方)のほとんどは労働者のためのものではなく、使用者のためのものだ。
コロナ一斉休校がらみの休職者助成制度として、政府は、労働契約に基づく労働者(上限1日8,330円)とは別にフリーランス(個人事業主)向けの低額枠(定額1日4,100円)を用意するようだ。
政府の一斉休校要請に伴う休職者への補償を目的とする措置ならば、契約の形式で区別することにどの程度の合理性があるのか疑問だ。(直井)