突然解雇を言い渡された。
解雇に納得ができないことから労働基準法22条に基づき解雇理由証明書の交付を使用者に求めたら、今度は説明なしで一方的な解雇撤回の通知があった。
解雇言渡しまでの経緯、及び説明なしの一方的な解雇撤回の通知などから、使用者への不信感がつのっている。
どのように対応すべきか戸惑っているとの相談があった。
解雇の言い渡しの撤回は、契約の解除の意思表示にあたるところ、民法(520条2項)は、解除の意思表示は、撤回することができないと定める。
したがって、解雇の言い渡しの撤回は、使用者による一方的な行使は許されず、労働者の承諾が求められる。
現実には、使用者による解雇撤回を受け入れ復職する労働者は多い。
この場合、解雇言渡しから解雇撤回まで就労できなかった期間の給与の支払い義務を使用者は免れることはできないことは当然である(民法536条2項)。
しかし、恣意的な解雇・一方的な解雇撤回という納得できない対応をした使用者に対する不信感などから復職に不安を感じる労働者も少なくない。
そのような労働者には、安心して働けるための復職条件の明示を使用者に求めることをアドバイスしたい。
明示を求める復職条件としては、復帰時期、復職後の部署、賃金切り下げなど不利益な取り扱いのないことの約束、職場の人間関係を含めた職場環境の整備などが考えられる。
なお、使用者側の事情で復職環境が整わないことから就労できなかった期間について、使用者が賃金支払い義務を免れないことは、解雇撤回までの不就労期間についてと同様である。(直井)
この4月に入社したが、業務中に受けたケガのために1か月もたたず4月末日付の退職に追い込まれた保育士から相談があった。
入社早々の保育業務中に受けた腕のケガが当初思ったより重篤であった。
安静必要との診断書を提出のうえでの自宅療養中に労災申請や病気休業について上司に電話で相談したところ、園長からお話があるといわれ5月の大型連休に入る直前の4月28日に職場へ出頭することになった。
案内された会議室には、園長、副園長、事務長に加えて保育園の運営主体の責任者も出席し緊張している雰囲気であった。
園長からは、あると思っていた休業や労災申請手続きの話ではなく、唐突に相談者の職務態度の問題点を指摘され、相談者が返答にとまどっていると、ようやくケガの話題に移り、いきなり「いつから復職できるか」との話となった。
相談者は、まだ検査中で確定的な診断がつかない状態だと説明すると、それでは園は困る、保育園は現場の職場なのでケガが直らない状態では働かせる部署がない、と言われた。
さらに「いつから現場に戻って働けるのか?」と繰り返し質問されているなかで、相談者が、「腕が直らないということになったら、家族とは退職も考えねばならない」との話もしていると話した。
園側は間髪を入れず、「辞めるんですね。」と反応して、「いつにしますか?」、「今月いっぱい?それとも来月いっぱい?」、「引き継ぎが必要な事項はあるのか?」、「勤め始めてからまだ1か月も経過していないのだから、労災は認められるはずはないし、来月まで延ばしても休業補償給付金はでないだろう」、「明後日(4月30日)の今月末がいい」など、相談者が口を差し挟む隙を与えない状態で、園側の3人が相談者の退職を前提に話を一方的に進めていった。
相談者は、「待ってください。持ち帰って家族と相談したい」と何度も口を挟んでも、「試用期間中はいつでお辞めさせることができる」、「いつ退職とするかは園側が決めることだ」などといって、取り合ってくれない。
四面楚歌の相談者は、頭が真っ白となり、ここで抵抗しても無駄だ、私の話は何も聴いてもらえない、一刻も早くこの場を離れたい、この場から解放されたい、との一心から園側がその場で作成した「一身上の都合による退職願い」に署名した。
どんなに退職届(願い)への署名を迫られても、「持ち帰って家族と相談をしたい」とその場での署名を避けたうえで、早急に専門家へ相談をというのが退職勧奨にかかる労働相談が勧めるセオリーである。
そこには一旦署名をしたら終わりだという前提があるようだ。
でもその前提は正しいのだろうか。
対等な市民間の契約関係を規定する民法の規定によれば、自由な意思によらない意思表示は取消すことができる(民法95条、民法96条)。
労働契約関係においても同様である。
否、使用者との関係で経済的弱者である労働者保護の立場から一般的な契約関係以上に労働者の自由意志は尊重されなければならない。
本件においても、一旦署名してしまった退職願いではあるが、その有効性は法的には十分に争い得るとアドバイスした。(直井)
解雇を撤回され出社を会社から求められた、困惑しているとの相談を受けた。
復職したくない、どのように対応したらいいかという相談である。
話を聴くと、以下の事情があった。
弁護士に依頼して不当解雇の撤回を求める内容証明郵便を郵送した。
しかし、相談者の本音は、復職ではなく金銭解決を求めることにあった。
弁護士からは、はじめから金銭解決(損害賠償)を求めるのではなく、まずは解雇無効を主張して復職を求めたほうが交渉上有利だとアドバイスをうけた。
弁護士のアドバイスに従ったが、それが裏目にでたということだ。
原則として、解雇の意思表示が労働者に到達した後は、使用者がこれを一方的に撤回することは許されない(民法540条2項)。
ただし、従業員の同意があれば話は別です。
本件の場合、従業員が解雇の撤回を求めていたことから、同意があったと解される。
正当な理由なく出社を拒否すれば、それを理由に改めて解雇を言い渡されるリスクがある。
撤回日以降の賃金を請求することも難しくなる。
したがって、いったん復職をして様子をみる以外ないように思える。
しかし、どうしても復職をしたくないのならば、解雇日から撤回日までの未払い賃金の支払いを受けて退職するのも一つの選択肢だ。
ただし、出社前に以下のような復職条件についての交渉をする余地はある。
・撤回日から復職指定日までの期間が短い場合、出社準備のための期間を求めること。
・復職後の就労場所、就労条件が明確でない場合、会社に説明や協議を求めること。
・解雇日から撤回日までの賃金の取り扱いについて不明の場合は、撤回までの未払い賃金の支払いを求めること。
復職条件の交渉がまとまらないうちは、会社の受領拒否が続いているとしてその間の賃金を請求することも可能です。
なぜなら、解雇の撤回により、それ以降の賃金が発生しないというためには、その前提として、会社が労務を受領しないとの態度を改めて、受領拒絶状態を解消する措置を講じる必要があるとされているためです。(直井)
不当解雇された相談者からの数ある質問のひとつに解決金はいくら取れるかというのがある。
職場復帰ではなく金銭解決を望んでいる場合である。
事案(正社員か契約社員か、勤続期間の長短、解雇の悪質性など)により千差万別だと答えるしかない。
しかし、それでは答えにならないであろう。
実際の解決金額は相手である使用者との交渉の結果であることから幅が大きい。
しかし、ほっとユニオンの要求額には一定の方針がある。
以下において、取り扱い件数が比較的多い勤続期間が短い案件についていままで経験した具体的な事例をもとに要求額を整理をしてみることにする。
・入社直後の解雇
入社から試用期間中14日以内までならば解雇予告が不要であることから(労基法21条4号)、解雇が自由にできると誤解している使用者は少なくない。
しかしながら、労基法20条の解雇予告(ないし解雇予告手当)と労働契約法16条の定める解雇の有効要件(客観的合理的理由と社会通念上相当性)とは全く別の次元のものだ。
試用期間中であっても解雇の有効要件を定めた労働契約法16条の適用はある。
・入社1か月以内の解雇の解決金
個人経営のクリニックや会計事務所など小規模な事業所で多く見られる解雇案件である。
この場合、解雇日から和解成立日までの間の賃金相当額(バックペイ)に加えて賃金の1か月分から3か月分を要求する事例が多い。
ただし、新卒新規採用の場合は解雇のダメージが大きいことから、請求額は最低でも6か月分となる。
・入社6か月以内の解雇
この解雇にあっては試用期間満了など試用期間を理由とする解雇が多い。
しかし、試用期間であっても労働契約法16条の解雇の有効要件は求められる。
この場合、バックペイ+賃金の3か月分から6か月分が要求額となる。
・入社後6か月から1年以内の解雇
この場合、バックペイ+賃金の6か月分が要求額となる。
・入社後数年勤務している場合は、1年分の賃金相当額を要求することになる。
なお、解雇予告手当が支払われているときは、支払われた解雇予告手当をバックに充当する計算となる。
以上は一応の基準であり、実際には個々の事情に応じて対応することになる。(直井)
不当解雇についての相談は多い。
解雇は違法・不当で納得ができない、しかし、いまさら職場に戻るつもりはないという相談者は少なくない。
復職ではなく、損害賠償(慰謝料)を請求したいという相談である。
法律的にいえば、労働契約法16条(解雇)を根拠に解雇の無効を主張して従業員としての地位の確認(復職)を求めるのではなく、民法709条(不法行為)を根拠に解雇が違法な権利侵害である不法行為に当たるとして損害賠償(慰謝料)を請求したいということである。
しかし、復職までは求めないという相談者に対しても、とりあえずは、解雇無効を主張して従業員としての地位の確認(復職)を求めることを勧めている。
結局、金銭解決で終わるとしても、このほうが労働者に有利だからである。
裁判所において、解雇が不法行為に当たると主張し損害賠償(慰謝料)を請求する場合、原告(労働者)が解雇が不法行為に当たることを証拠に基づいて証明する必要がある。
労働者が十分な証拠を持っていない場合は勝訴は事実上困難な場合もある。
一方、解雇無効を主張する場合、解雇に客観的に合理な理由があること、かつ、社会通念上相当であることについて、立証責任を負うのは使用者である(労働契約法16条)。
労働者は解雇された事実だけを主張・立証すれば足りる。
裁判手続において客観的な証拠が十分でない場合、立証責任をどちらが負うかは、決定的な違いとなる。
事実を証拠に基づいて証明できない場合、立証責任を負う側が敗訴することになる。
当然、このことは裁判外での交渉にも影響を与える。
裁判外の交渉においても、交渉が決裂して裁判手続に移行した場合どうなるかを、使用者も頭に入れて交渉に応じるからだ。
すなわち、復職ではなく金銭解決を求めるにしても、とりあえず解雇無効を主張して復職を求めるほうが、使用者に与えるプレッシャーはより大きいものとなる。
また、交渉により得られる金銭解決の水準も結果として高いものとなる。(直井)