☆労働トラブルの闘い方☆

第10章 退職したいのに、認めてもらえない!


退職したいのに、認めてもらえない

 退職に関する悩みは、一見大したことないと思われがちですが、実は周りが考えている以上に本人にとっては深刻な場合が多いのが実情です。なぜなら、退職でのトラブルは、会社の同僚や先輩には相談しづらく、一人で問題を抱え込んでしまいがちになる上、法的にも検討しなければならないポイントが沢山あり、ある程度の法的知識を持っていないと、どのようにすれば問題なく退職手続きを進めていけるのか、正解を導き出すことが難しいからです。結果として、なんら解決策を思いつかないまま不安だけが先行し、精神的に追い詰められて病気になってしまったりするケースもあるほどなのです。

 

本来、労働者が退職するかしないかは、最終的には労働者本人が決断することであり、会社が強引に引きとめて、強制的に働かせることはできません(労働基準法第5条)。しかし実際には、強制的とまではいかなくても、会社から退職の承諾が得られなかったり、会社からの威圧的な引きとめにあったりして、不本意ながら会社を退職できない労働者がたくさんいます。自分の意に反して仕事を続けることは、仕事に対するモチベーションが低下することはもちろん、精神的衛生上も良いはずがありません。

 

   退職でのトラブルは、会社から損害賠償金を請求されるなどの事態を引き起こす場合もあります。万一、退職のトラブルに巻き込まれてしまった場合には、自分一人で判断する前に、なるべく早めに、専門家に相談することをお勧めいたします。

 


<こんなふうに対応する>

    会社の就業規則の退職の申し入れの規定を確認する。

⇒ 原則として、就業規則に退職の申し入れの規定があるときには、就業規則の規定によることになります。

    自分の労働契約が「期間の定めのない契約」なのか、「期間の定めのある契約(有期労働契約」なのかを確認する。

⇒ 退職手続きに関しては、期間の定めのない場合と、期間の定めのある場合とで、大きく異なってきます。

ア)  期間の定めのない契約の場合

会社が「退職願」を提出しても退職を認めない場合には、就業規則の規定に関わらず、民法第627条の規定により、「退職届」を退職日の2週間前(完全月給制の場合は同条第2項、年棒制等の場合は同条第3項の定める期間)に提出することによって退職することができます。

なお、「やむを得ない事由」(詳細は後述)がある場合(民法第628条)には、期間の定めのある・なしに関わらず、即時に労働契約を解除できるものとされています。

イ)  期間の定めのある契約(有期労働契約)の場合

「やむを得ない事由」があるときに「直ちに契約の解除をすることができる」にとどまり、しかもその事由が当事者の一方的な過失によって生じたときは相手方に対して損害賠償の責任を負うとされています(民法第628条)。

つまり、有期労働契約の場合、「やむを得ない事由」がなければ退職ができないが、その場合には退職の予告は必要がないということになります。

◆「やむを得ない事由」とは、以下のような場合などが考えられます。

・仕事の継続により労働者の身体・生命に対する危険が予測される場合

・近親者の介護の必要がある場合

・家庭の事情の急激な変動がある場合

 なお、有期労働契約のときにも、就業規則や労働契約に「退職しようとする場合には1ヶ月前に退職届を提出すること」といった規定ある場合があります。この場合には、「やむを得ない事情」なくても、1ヶ月前に「退職届」を提出することによって退職することができます。

⇒また、 1年を超えた有期労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除く)を締結した場合であって、契約締結日から1年を超えたときには、労働者は、使用者に退職を申し出ることによりいつでも退職できることになっています(労働基準法137条)。

    入社時に明示された労働条件が、実際と異なる場合に該当するか否かを確認する。

⇒ 明示された労働契約の内容と事実が異なっている場合は、その理由のみで、労働者は労働契約を即時解除できます(労働基準法第152項)。

◆ 明示された労働条件とは、明示義務のある労働条件に限るとされており、賃金・労働時間・業務内容等がこれに該当し、福利厚生や寄宿舎に関する事項は該当しないことになります。

 ただし、事実が相違していることを知ってから長期にわたりその労働条件の下で異議を申し出ずに労働している場合には、その事実が契約内容になったものと考えられます。したがって、即時解除権の行使は、事実が相違していることを知ってから相当期間内に行使することが必要です。

    上記①~③を確認した上で(法的な根拠に基づいて)、確固たる意思をもって会社に対して退職の意思表示をする。

⇒ 当然のことですが、労働者が会社を退職する場合には、会社(使用者)に対して退職の意思表示をすることが必要です。「言った・言わない」といったトラブルを避けるためにも、書面にて「退職届」を提出し、しっかりと退職の意思表示をしましょう。 

     会社から嫌がらせをされた場合にはしかるべき対応をとる。

  ◆会社から損害賠償の請求をされてしまった場合 

 ⇒ 会社に退職を認めてもらえないため、事前に何の予告もなしに退職を強行した場合、労働者の退職に伴う損害が会社に発生する可能性もあります。この場合、使用者は労働者に対して損害賠償の請求を行うことができます(民法415条、民法628条)。このような場合、会社が損害賠償として、当該退職労働者の採用や教育にかかった費用を請求されるなど、思わぬ損害賠償をかけられる場合があります。

 この場合、安易に支払うことはせず、納得が行かない場合には「納得できませんので支払いには応じかねます。」としっかりと意思表示しましょう。

◆ 退職後に「離職票」を交付してもらえない等の嫌がらせを受けてしまった場合

⇒ また、損害賠償請求まではされなくても、退職後に「離職票」を交付してもらえず、失業手当のもらうための申請ができない等の事態に追い込まれることもあります。

 このような場合、会社に対し退職労働者が直接交渉しても埒が明かない場合がほとんどです。そのような時は、労働問題の専門家の力を借りることをお勧めいたします。労働相談カフェでは、貴方に代わって会社と交渉し、適切な対応を取るように話を進めて行く「退職代行サービス」の紹介もしております。

◆ 実際に交渉してみると、労働者が損害賠償をしなくて良いケースも多く、また、「離職票」の交付もスムーズに交付してもらえたというケースも少なくありません。退職に際しての会社からの嫌がらせに対しては、安易にあきらめることはぜず、まずは「労働相談カフェ東京」(03-5834-2300)に電話してアドバイスを受けましょう。(電話相談は無料、受付時間は平日9時~18時です!)

 


 <退職届の書き方を知っておきましょう!

  

※①退職届

 

 

このたび、※②会社における長時間労働によって体調を崩したため※③20××年×月×日をもって※④退職いたします

  

※⑤20××年×月×日

営業部 〇〇 〇〇  印

 

株式会社 〇〇〇〇

代表取締役 〇〇 〇〇 殿

 

 

 

※①「退職願」と「退職届」について

⇒「退職願」は、労働契約の解約を願い出るものです。 会社に退職を申し込み、承諾がなされてから初めて退職となるため、提出した時点では退職となりません。

⇒「退職届」は会社への明確な意思表示となり、受理された時点で退職となります。 こちらは撤回することができません

※②退職の理由を書きます。やむを得ない理由がある場合には、その理由を(具体的に)書くようにしましょう。「一身上の都合」と書くと、会社都合退職にも関わらず自己都合退職として処理され、退職後に受給する失業保険の金額や期間などが変わる場合がありますので、注意が必要です。

※③退職日を記載します。

※④退職届の場合は、「退職いたします」と事実を報告する旨を書きます。

※⑤退職届を提出する日付を記入します。

 

※「退職届」のコピーを取っておくこと

※郵送する場合は、配達証明郵便など記録の残る方法で送付すること

※あくまでも記載例の見本です

 

(労働紛争解決アドバイザー 横川)