☆労働トラブルの闘い方☆

第8章 パワーハラスメントを受けている!


いじめ・嫌がらせを受けている

 「誰に相談していいのかわからない・・・。」「こんな私的なことで相談していいのだろうか?」「こんな相談をすると、自分がダメ人間だと思われてしまうのではないか・・・。」「相談したことがバレると上司から報復があるのではないか?」「もうどうしていいかわからない・・・。」

 

 職場でのいじめ・嫌がらせ(以下、「パワハラ」と言います。)の相談件数は、近年増加の一途を辿っていますが、実は、上記のような思いから、まだまだ相談できない方が多いのも事実です。現在の社会では、たとえパワハラにあったとしても、それを笑う人なんかいません。なぜなら、働く人の誰もがこの問題の当事者になり得るからです。

 

 まずは、専門家に相談する勇気を持ちましょう。

 このままパワハラにあっている状態が続くと、仕事の意欲や自信を失うばかりか、夜も眠れない日々が続いてしまいます。そして、メンタルヘルスの悪化に伴い、心身の健康や命すら危険にさらされることになりかねません。守るべき優先順位の第一はご自身の健康です。

 

 パワハラに対して、一人で立ち向かうのは荷が重すぎます。是非、専門家の力を借りて、解決に向けての取り組みを始めましょう!

 


<こんなふうに対応する>

 ① メモ(具体的なもの)を残す。(パワハラ事案の難しいところは、パワハラされたことの立証が難しいことにあります。メモを残す場合には、5W1H + 誰が同席していたか + 周囲に目撃者はいたか ・・・ までの詳細についても、しっかりと書き留めておきましょう。)

② 録音して、パワハラ(暴言等)の実態を残しておく。(パワハラ事案において、ボイスレコーダーは必須アイテムとなってきております。)

③ 可能であれば録画しておく。(同僚に協力を頼めるであればそれに越したことはありません。)

④ 医者にかかった場合には、診断書をもらって残しておく。

⑤ 会社の相談窓口があれば、相談して解決を図る。(その場合、会社の誰に相談したか等、5W1H形式でメモに残しておく。)

⑥ それでも解決できないような場合には、労働相談カフェ東京」(03-5834-2300)に電話しアドバイスを受けましょう。電話相談は無料、受付時間は平日9時~18時です!

 

 


<パワハラの定義・類型・損害賠償請求のポイントを知っておきましょう!>

 パワーハラスメントとは(定義)

 職場のパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」を言います。

(平成24・3・15「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」)

 

 パワハラの6類型

 パワハラ行為の類型としては、以下の6類型が挙げられます。

  1.  暴行・傷害(身体的な攻撃)
  2. 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃 )
  3.  隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
  4.  業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
  5.  業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
  6. 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

 (平成24・9・10 地発0910第5・基発0910第3)

 

 損害賠償請求のポイント

  • まず、セクハラとパワハラの違いについて述べると、セクハラの場合には、セクハラ被害を受けた方がどのように感じたかが問題となるのに対し、パワハラの場合には、社会通念上どうなのかが問題となります。
  • そもそもパワハラは職場における業務上の指導の延長にありますで、客観的にみて「指導が業務で許容される範囲を超えていたかどうか」「業務上の正当性があったかどうか」などでパワハラに該当するか否かが判断されることになります。この判断は、損害賠償責任の要件にもなるので、パワハラの程度・態様・頻度等を客観的に証明するための証拠が極めて重要になります。
  • 職場でパワハラが起きたとき、被害者は、パワハラをした加害者に対して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をするとともに、併せて、会社に対して不法行為責任(民法709条)および使用者責任(民法715条)、あるいは債務不履行(安全配慮義務違反)(民法415条)に基づいて損害賠償請求するのが通常です。
  • そして、パワハラによって退職せざるを得なくなったり、うつ病や適応障害に罹患し一定期間働けなくなったりした場合には、損害賠償額が多額となるケースもあります。
  • 近年では、パワハラによって自殺したとして、会社に多額の損害賠償の支払いを命ずる判決も増えてきています。
  • 最後に、パワハラを理由とする精神障害等での労災保険の支給決定件数も増加してきています。ご自身の被った損害が、パワハラに起因していることが明確であれば、労災保険が適用される可能性があることも知っておきましょう!

  


<改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)の内容のポイントを理解しておきましょう!>

 

◆まずは、ポイントとなる条文を見てみましょう!

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(労働施策総合推進法30条の2第1項)

 ⇒概要としは、各企業に対して職場内におけるパワーハラスメントを防止するための措置を義務づけるというものです。

 

◆パワハラ防止法の施行時期を確認しておきましょう!

 ① 大 企 業 :令和2年6月1日から

 ②中小企業:令和4年4月1日から(令和4年3月31日までは努力義務)

 

◆企業に義務付けられたパワハラ防止に向けた措置とは!

 企業がやらなくてはならないことは、大きく次の3つです。

 ① パワハラ防止の社内方針の明確化と周知、啓発

 (事業主の方針「パワハラは職場からなくすべきであること」を明確に伝えること。)

 ⇒具体的には

 ・就業規則に懲戒など関係規定を設ける。

 ・予防・解決の方針やガイドラインなどを作成する。

 ・管理職、一般職問わず研修を実施し、ハラスメントのリテラシーを上げる。

 ② 相談や苦情などに対する相談体制の整備

 ⇒具体的には

 ・企業内、外に相談窓口をあらかじめ設置して、労働者に周知する。

 ・相談者のプライバシー保護等に配慮し、相談を受けやすくする。

 ・職場の対応責任者を決め、対応スタッフに適切な研修を受けさせる。

 ・パワーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。   

 ③ 被害を受けた労働者へのケアや再発防止など事後の適切な対応

 ⇒具体的には

 ・事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

 ・被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、配置転換等を行うこと

 ・被害者のメンタルヘルス不調への対応として、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応等の措置を講ずること。

 ・法30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること。

 ・再発防止のため、行為者に対する再発防止研修など、行為者に対する必要な措置を適正に行うこと。

 ※具体的な措置については、企業事情に合わせて実施することになります。

 

◆罰則等について

 パワハラ防止法には、罰則がありません。

 ただし、上記のような措置義務を新設したことに加えて、パワハラ問題でも紛争解決のための「調停」を使えるようになりました(労働施策総合推進法30条の6)。

 これにより、これまでの労働局長による「助言・指導」に加えて、調停委員会により、関係者の出頭を求めて意見を聴いたり、調停案を作成して、関係当事者に対しその受諾を「勧告」することができるようになります。

 

 

                 (労働紛争解決アドバイザー 横川)