正社員募集に応募したら、採用面接において、とりあえずはお互いが合うかどうかをみるためといわれ6か月間の有期契約書への署名押印を求められ、そのあげく、6か月間経過後には正社員登用の約束は反故にされ、続けて働きたいのであれば、これが最後の契約である旨の記載のある6か月間の有期契約書に署名押印するように求められたとの相談があった。
会社によっては試用期間を形式的には有期契約として契約書を取り交わす例がみられる。
そのこと自体は違法ではない。
しかし、試用期間としての性質を有する有期契約においても、会社は自由に正社員への登用拒否(本採用拒否)を行えるわけではないことは通常の試用期間と同様である(神戸弘陵学園事件・最三小1990年6月5日判決)。
正社員への登用拒否(本採用拒否)には解雇の場合と同様に客観的・合理的な理由が求められる。
ところで、試用期間的な有期雇傭は、国の制度であるトライアル雇用と形式的には似た面がある。
トライアル雇用は働いた経験の少なさなどから正社員への就職の機会に恵まれない就活弱者に正社員への移行を前提として原則3か月間企業で働く機会を与える制度である。
使用者には制度利用の誘因として助成金(月額4万円)を支給する。
トライアル雇用は、正社員への移行を前提とした制度ではあるが、必ずしも使用者には正社員としての採用義務があるわけではないと解されている。
トライアル雇傭終了時に本採用に移行するかどうかは使用者が判断することになる。
トライアル雇傭には労使双方にとって「お試し期間」という性格があるからである。
しかし、通常の試用期間(試用期間的な性質を有する有期契約を含む)はお試し期間ではない。
試用期間は、長期的な雇傭契約を前提として、採用時には判明できなかった不都合な事由がその期間中に発覚した場合、例外的に正社員への登用を拒否できる制度である。
本相談においては、正社員登用拒否の理由を記載した書面を会社に求めることを相談者にアドバイスした。(直井)
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