就業規則において病気休職を命ずる前に一定の欠勤期間の継続を要件とする例が多い。
メンタルを病んで休職中の相談者の会社の就業規則の規定は以下のとおりである。
「(休職事由)第27条 社員は次の場合休職を命じられます。(1)業務外の傷病のため欠勤が引き続き3か月に及んだとき。(2)業務上の事由または通勤による傷病のため欠勤が引き続き3か月に及んだとき。(3)会社が、医師の診断に基づき、社員の身体または精神が業務遂行にたえられない状態と判断したとき。」
本件は、提出された医師の診断書により療養に相当長期間を要すると判断されたことから、定められた3か月間の欠勤期間に達する前に命じられた休職の効果が問題となった。
相談者は通常の休職(1)と同様な取り扱い(休職期間上限3年間、うち2年間は給与7割支給)を求めた。
これに対して会社は、本件は例外的に会社判断で認めた休職(3)なので本来の休職期間の上限3年間、うち2年間の給与7割支給の規定は適用はないとのものである。
休職とは、業務外での傷病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての地位を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な取り扱いをいう。
業務に起因する傷病の場合は労働基準法などに解雇制限などの労働者保護の規定があるが、業務外の傷病を理由とする休職については、休職期間、復職等についての法の定めはない。
具体的な取り扱いは労働契約や就業規則の定めによることになる。
就業規則において病気休職の要件として当該傷病を理由とする一定期間の欠勤の事前継続を要件として定める例が多い。
厚生労働省労働基準局監督課によるモデル就業規則は休職ついて以下のとおり規定する。
「(休職)第9条 労働者が、次のいづれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
①業務外の傷病により欠勤が○か月を越え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき ○年以内、
②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間」
労働契約は労働者が労務を提供する義務を負い、使用者が賃金を支払う義務を負うという双務契約である。
労働者が労務を提供する義務を履行できない場合は、使用者は契約を解除(解雇)できることになる。
ただし、労働者の安定した生活を保護するために合理的な理由のない解雇は無効とされる(労働契約法16条)。
療養中の解雇は、療養のため労務を提供できないことが解雇の合理的な理由となるかが争われることになる。
裁判においては、回復するまでもう少しの期間を待てないのかが争点となる。
なお、業務に起因する傷病の場合は療養期間中の解雇は禁じられている(労基法19条)。
数ヶ月程度の比較的短期間の療養中の解雇は、長期雇用慣行を重視する裁判所では合理的な理由のある解雇とは認められない可能性が高い。
一般に病気休職の要件として定められている事前の欠勤期間は、裁判所では解雇は認められないと考えられている程度の短期間であることが多い。
判断が難しいのは、予想される療養期間が1年に及ぶなど相当長期間に及ぶ場合である。
傷病休職制度は、一定期間解雇権の行使を猶予する代わりに、一定期間経過しても復職できない場合は解雇できる(ないし退職扱いとする)とする労使間の約束を定めたものといえる。
すなわち、傷病休職制度は、療養中の一定期間解雇を制限する解雇猶予制度としての意味がある。
また、猶予期間を明確にすることによって療養期間中の解雇をめぐる無用な争いを防止する機能が期待される。
休職の要件としての事前の欠勤期間は、傷病の療養のためどのくらいの期間を要するかを判断するための期間と考えられる。
そうとすると、欠勤期間経過前に療養が相当長期間に及ぶと医師の診断等により判断される場合は、欠勤期間経過前に休職の発令をすることは、労働者に不利となる特段の事情がないかぎり、許されると解される。
本件相談事例においては、3か月の欠勤期間の経過前に言い渡された休職命令は有効だが、休職期間及び有給期間を任意に短縮する取り扱いは許されない解される。(直井)
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