☆契約書の交付を求めたら、契約は白紙に!☆

サッカークラブから指導員としての採用の申し込みを受けて、自宅のある九州から関東のクラブ事務所を訪問し面接を受けた。相談者が口頭で説明を受けた労働条件を記載した労働契約書の交付を求めたところ、そのような要求をする者とは信頼関係が持てないとして、突然、契約を白紙に戻されたとの相談があった。

 

労働契約は口頭による約束であっても有効に成立します。

契約書の交付は労働契約の成立要件ではありません。

しかし、契約書は、労働条件を巡る採用後のトラブルを防止するうえで重要なものです。

 

労働契約書の交付を求める相談者に対し、面倒な権利主張をするトラブルメーカーになる恐れがあると感じて、クラブ側は契約を白紙に戻したと推測できる。

しかし、合意した契約内容を記載した労働契約書(ないし労働条件通知書)の交付を求めることは法律が定める労働者の当然の権利であり、労働契約書を交付することは使用者の義務でもある。

 

労働基準法(労基法15条、労基規5条)は、労働契約を巡るトラブルを事前に防止し労働者を保護するために、①契約期間、②就業の場所・従事する業務、③勤務時間・休日、④賃金など基本的な労働条件については、書面を交付する方法によって明示することを使用者に義務づけている。

労働基準法の趣旨からすれば、契約書の交付を拒否して契約を白紙に戻したクラブ側の対応は違法といわざるを得ない。

 

労働契約がすでに成立していたと解される場合には、契約破棄の無効を主張して地位確認とバックペイを請求して裁判を提起することが可能だ。

労働契約の成立に疑問がある場合でも、契約の成立を期待して遠方から出向いた相談者の利益は守られるべきだから、交通費など契約締結の過程で相談者が支出した経費をクラブ側に損害賠償請求することは可能だ。

 

労働基準法の規定にもかかわず、契約書(ないし労働条件通知書)を交付しない使用者は少なくない。

とりわけ、個人経営の小規模な会社においては多くみられる。

弱い立場にある労働者側からは言い出しにくいことがらであるので、労基署の積極的な指導・啓発活動を期待したい。(直井)