☆名ばかり裁量労働制に注意!☆

毎日10時間を超える長時間労働を強いられているにもかかわらず、残業代が全く支払われていないとの相談があった。

使用者はコンピューターグラフィックなどの制作を業とする従業員10名程度の小規模な会社である。

相談者の担当業務はゲームソフトの背景イラストレーションの作成である。

簡単に言うと、コンピューターで絵を描く仕事である。

 

使用者に未払い残業代の支払いを請求したら、裁量労働制だから残業代は発生しないとの社長からの回答があった。

裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度である。

 

確かに社長の示した雇用契約書には「裁量労働制」の文言がある。

また、「従事する業務の内容」として「デザイナー」と記載があることからすると、相談者の担当業務が裁量労働制の適用業務とされる「デザイン考案の業務」(労基則24条の2の2)にあたり、労基法38条の3が定める専門業務型裁量労働制に該当すると考えているようである。

 

しかしながら、本件においては、相談者の実際に従事していた業務が労働基準法の定める専門業務型裁量労働制の適用業務にあたるかについて大いに疑問がある。

また、実体的要件に疑問があるだけでなく、裁量労働制を適法に導入する手続的要件が欠けていることが明白であった。

 

裁量労働制を適用し、みなし労働時間による管理を行うためには、過半数労働組合(または事業所の過半数代表)と労使協定を締結することが必要である。

すなわち、労使協定で具体的に裁量労働に該当する業務を定め、その業務に必要とされる時間(みなし労働時間)を定める必要がある。

さらに、当該労使協定を労働基準監督署に届け出ることが義務づけられている。

 

本件において、社長は、雇用契約書に「裁量労働」と書き込みさえすれば、裁量労働制が適用できると安易に考えていたようである。

否、社長は違法と分かっていながら、労働者の弱い立場と無知につけ込んでこのような契約書を取り交わし、残業代ゼロを企んだ疑いもある。

 

採用時に押しつけられた雇用契約書に「裁量労働」の文言があるとしても、労働基準法が定める実体的要件や手続的要件を満たさない裁量労働制は無効である。

使用者から裁量労働だから残業代ゼロといわれても、疑問に思ったら安易に諦めず、弁護士やユニオンに相談することをお薦めする。(直井)