初回の団体交渉の場で使用者から予期していなかった事実を指摘され、当該組合員が一瞬沈黙してしまったことがある。
私以外の交渉担当者の機転に助けられなんとかその場をやり過ごすことができたがヒヤリとした。
従業員が1か月後の退職を申し出たところ、日頃から当該従業員を快く思っていなかった使用者が反射的に「明日から会社に来なくていい」と言い返し、後でこれが解雇の言い渡しか否かが争われる事案がある。
中小企業のオーナー経営者や小さなクリニックの院長など労務管理に不慣れな使用者にみられる。
本件もその典型例だと考えた私は、解決への一応のストーリーを頭に描いて団体交渉に臨んだのだ。
しかし、使用者の予期せぬ一言により当初描いていたストーリーに修正を迫られ内心慌てた。
相談時点の事情聴取は、駆け込み訴えを取り扱うユニオンにとって、相談者が話す事実関係を前提にして、使用者との交渉による解決の見通しを相談者に説明し、組合に加入するか否かの判断材料の示すためのものである。
相談者はえてして自分に不都合だと考える情報を積極的には話さない傾向がある。
初対面の相談員に対して全てを正直に話すことを期待するのは無理である。
ほっとユニオンでは、第1回団体交渉に臨む前に一時間ほどかけて直前の打ち合わせをすることにしている。
使用者に対する要求の最終的な確認と事実関係の再確認のためである。
もちろん最初の相談の段階で聴取済みのことである。
ここで事実関係についてあえて再度聴取するのは、いままで言いそびれていた「不都合な事実」を話す機会を与えるという意味もある。
本件についても1時間ほどかけて事実関係の再確認をしたのだが、聴いておくべき「不都合な事実」を聞き漏らしてしまった。
聴き手としての私の未熟さの結果である。
しかし、「不都合な事実」こそ解決へのストーリーを考える上でカギになる重大な事実であることが多い。(直井)
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