労働局にあっせん申請にいったら、「紛争状態」にあるか微妙であるといわれ、結局受け付つけてもらえなかった相談者がいた。
メンタルで病気休職中に上司からメールなどで度重なる退職勧奨がああった。
これに対し、相談者が今は職場復帰を考えていると退職勧奨を拒否し続けたら、今度は会社に出頭しての面談に応ずるように求められた。
会社の会議室で上司などに囲まれた中での面談に不安を感じた相談者は、自宅近くで一対一の面談ならば応ずる用意があると回答したが、無視された。
相談者は、会社の上司とのやりとりがこれ以上続くことには耐えられないと感じたことから、労働局に、退職勧奨問題の解決のためのあっせん申請の手続きに赴いた。
しかし、窓口の職員は、会社に対して何か具体的な要求をしてそれが拒否されたとの説明が不充分だとし、いまだ「紛争状態」にあるといえるか疑問があるとして受け付けてもらえなかった。
労働局のあっせん申請書には①労働者及び事業主の氏名及び住所を記載する「紛争当事者」欄、②「あっせんを求める事項及びその理由」欄と③「紛争の経過」欄、④「その他参考となる事項」欄がある。
相談者は②「紛争の経過」欄に断っても断っても度重なる退職勧奨が続いているという事実を記載した。
労働局の職員が求めていた記載内容は、「労働者が使用者に対して、退職勧奨を止めることを明確に求めたが要求は無視され退職勧奨が続いている」、「労働者が使用者に対して、退職勧奨が不法行為に当たるとして慰謝料の支払いを求めたが拒否された」など労働者が使用者に対して当該退職勧奨に関する具体的な要求を提示し、これに対し使用者が拒否した事実のようだ。
労働者にとって退職勧奨問題という労働トラブルが存在するのは疑いのない事実である。
このことは労働局の職員も理解したようだ。
しかし、労働局の職員の説明によれば、あっせん手続きは、労働者と使用者との間に「紛争」が発生していることが前提となる。
ここでいう「紛争」とは労働トラブル解決策にかかる当事者間の主張の不一致である。
いまだ「紛争状態」に至らない事実上の「労働トラブル」はあっせんの対象とはならないとのことである。
「紛争の経過」欄には紛争の原因となった事実(労働トラブル)と交渉の経緯(紛争状態)の記載が求められる。
相談者の準備したあっせん申請書には解決して欲しい労働トラブルについての記載は山ほどあったが、当該労働トラブルについて使用者との交渉の経緯の記載が欠けていた。
確かに、あっせんが当事者の自主的な話し合いのお手伝いをする手続きに過ぎないことは、労働局の職員の説明のとおりである。
しかし、労働者は、使用者と一人で対峙して交渉できる自信がないから行政に助けを求めたのである。
使用者との関係で弱い立場にある労働者に対して、まず交渉してそれが不調に終わってから出直せえとはいささか乱暴な対応と言わざるを得ない。
労働局には、労働者の立場にたった柔軟な対応を望みたい。(直井)
賃金は後払いが多い。
たとえば、「毎月月末締め・翌月15日払い」など。
民法(624条)に賃金後払いの原則が規定されていることから、そのこと自体は違法ではない。
バックレされた使用者が怒って、退職時に支払うべ賃金を支払わないことがある。
退職後の支払い期日になっても振り込まれていないことで判明する。
賃金の未払い分を足止め策として利用していると思われる業界もある。
ガールズバーなどで給与明細もなく日給月給制で口座振込ではなく現金で給与を手渡しているところで発生しやすい。
退職後、営業時間である夜に未払い分の賃金を受け取りに店に出向くのは勇気がいる。
受け取りにいっても、その場にいる店長は雇われ店長で埒が開かない。
契約書を取り交わさない口頭での契約が多いため、従業員には未払い賃金を請求すべき使用者が誰かすら不明であることが多い。
そのような場合、管轄の保健所で飲食店の営業許可を受けている施設一覧を調べれば、営業者が誰であるかを確認することができる。
ほっとユニオンはそのようなお手伝いもしています。(直井)
ユニオンの特別組合費(解決金カンパ)について聞きたいという遠方からの電話相談があった。
ほっとユニオンの特別組合費についてのお尋ねかと思ったが、話しを聞くとそうではなかった。
次のような話しだ。
定年退職後の再雇用拒否についてユニオンに加入して使用者と争った。
団体交渉は持たれたが、交渉が膠着したため、相談者は裁判での解決を求め、地位確認と賃金の支払いを請求し訴訟を提起した。
弁護士を捜し、依頼したのは相談者自身である。
ユニオンの紹介があったわけではない。
着手金など裁判費用は相談者が全て負担した。
訴え提起後、地方裁判所の判決がでるまで2年ほど経過した。
その間、ユニオンの組合員が裁判傍聴に来てくれた。
地裁判決では相談者の請求はほぼ認められたが、会社が控訴したため、争いの場は高等裁判所に移った。
高裁では裁判所の和解勧告があり、結局、約1800万円の金銭和解で解決した。
その直後、ユニオンの書記長に呼び出され、裁判所で得た和解金から弁護士費用など裁判にかかった費用(約300万円)を控除した額(約1500万円)の2割を特別組合費として支払って欲しいとの話しがあった。
相談者が、どうして払わなくてはならないのとか尋ねると、組合加入時に約束したはずだといわれた。
自宅で手持ちの資料を調べると、確かに、組合加入時に受けとった書類の中に「組合加入に際しての約束」との表題のあるA4・1枚の紙があった。
そこには、月例組合費(月額2,000円)とは別に特別組合費(組合の団体交渉、裁判などで使用者から獲得した金員の2割を特別組合費として組合に納めること。)との記載がある。
相談者としては、ユニオンによる団体交渉で解決したならともかく、自分で費用負担して提起した裁判での解決で得た和解金について特別組合費を請求されることは納得ができない。
法的には組合加入時に取り交した「約束」の解釈の問題であると説明し、電話相談は終わった。
ほっとユニオンも月1,000円の月例組合費のほかに団体交渉で得た解決金の2割を特別組合費として納めてもらっています。
しかし、団体交渉が不調に終わり、相談者が自ら弁護士を依頼した裁判で解決したときは、特別組合費の対象とはしておりません。
費用の話しは大事です。
ユニオンに加入して闘うにしろ、弁護士に依頼して裁判を提起するにしろ、費用については、始めに納得できるまできちんと確認することをお薦めします。(直井)
このままだと解雇となる、解雇されると転職に不利となる、会社はあなたのことを考えて自主退職を勧めているのだ、と人事担当者から勧奨退職に応ずるように執拗な説得を受けているとの相談があった。
会社が何らかの理由で辞めて欲しいと考えている従業員に対し、いきなりの解雇の言い渡しを避けて、退職勧奨を実施することはままある。
横領など懲戒解雇必至の事故を起こしたなど、具体的な心当たりがある場合ならば、自主的な退職の機会を付与する退職勧奨は会社の配慮といえる。
しかし、自主退職を勧める理由として、あなたを配属させる場は会社にはないとか、職場とのミスマッチとか、能力不足など抽象的な理由を揚げる場合は会社の真意は別のところにあることが多い。
人事担当者の本音は、後日解雇が法的に争われるリスクの回避にある。
破廉恥行為が原因である懲戒解雇は別として、退職理由が解雇であることは必ずしも恥ずべき経歴ではない。
かりに、転職先で退職の経緯を尋ねられたら、正直に納得できない恣意的な解雇があった旨を説明すれば、分かってくれるはずだ。
それでも納得してくれないような会社はこちらからお断りすることです。
そのような会社では、同じことがまた起こる可能性がある。
転職先からの退職会社への照会に対し、正当な理由なく退職の経緯を話すことは、個人情報の漏洩やプライバシーの侵害にあたり、損害賠償の対象となる不法行為となります。
解雇をちらつかせての納得できない退職勧奨には、解雇を恐れず明確に断ることをお薦めします。(直井)