☆労基法の休業手当(6割)と民法原則(10割)

休業要請対象業種ではないが、コロナ禍のなか4月から上司の休業指示を受け、緊急事態宣言が解除された後も休業指示が続いている。労基法の定める平均賃金の6割の休業手当は支払われているが、これでは生活ができないので困っているとの相談があった。

 

使用者の責めにきすべき休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない(労基法26条)。休業手当と称されるものである。他方、民法においては、債権者(使用者)の「責めに帰すべき事由」による債務(労働義務)の履行不能の場合には債務者(労働者)は反対給付請求権(賃金請求権)を有するとされている(民法536条2項)。

 

この民法原則と休業手当の保障との関係については、労基法上の休業手当の保障における「責めに帰すべき事由」は民法上の反対給付請求権の有無の基準である「責めに帰すべき事由」(故意、過失または信義則上それと同視すべき事由)よりも広い。

すなわち、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しないかぎりは労基法上の使用者の帰責事由に含まれると解されている。

 

要するに、休業手当は、労働者の最低生活を保障するために、民法により保障された賃金請求権のうち、平均賃金の6割にあたる部分の支払いを罰則によって確保したにとどまらず、使用者の帰責事由をも拡大した。

 

以上は「労基法上の休業手当(6割)と民法原則(10割)の関係」についての代表的な労働法の教科書の説明である。

相談者が労基法上の6割ではなく民法上の10割を求めて裁判を提起する場合、当該休業にかかる使用者の帰責事由(故意、過失または信義則上それと同視すべき事由)の存否が争点となる。(直井)

 

 

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☆休業手当だけでは暮らせない!☆

休業手当のみの給与明細をみて愕然としたとの相談があった。

給与の締め切り日(毎月20日)・支払日(当月25日)の関係で対象期間の全てが休業日となったのは5月25日に振り込まれた給与(4月21日から5月20日までの分)が初めてだった。

 

休業手当は賃金の6割と聞いていたので、4割の減額は覚悟はしていた。

しかし、振り込まれた額は予想を遙かに下回った額だった。

 

労働基準法が定める休業手当(平均賃金の6割)を簡略化して計算すれば以下のとおりとなる。

かりに、月給30万円、勤務日が月20日だとする。

平均賃金(1日分)は30万円÷30日=1万円に、そして1日分の休業手当は、1万円×0.6=6千円となる。

 

1か月全てを休業すると、1か月分の休業手当として支払われるのは

6千円×20日(勤務予定日・休業日)12万円となる。

通常の給料の4割にしかならない。

 

このように低額となるのは、平均賃金を計算する際には公休日も含め暦日30日で割るのであるが、休業手当の対象日は所定労働日(勤務予定日)のみで公休日(土曜日、日曜日、祝日など)は対象とならないからだ。

 

ここから社会保険料(厚生年金、健康保険)が引かれるから、額面は10万円を割る。

こんな状態が長く続いたら生活は破綻する。(直井)

 

 

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☆小さなバーの雇われママの悩み☆

小さなバーの雇われママから相談があった。

現在、コロナ禍のなかオーナーの指示で4月以来休業中である。

 

オーナーは事業者向けの「持続化給付金」や「家賃補助」の申請をしている。

しかし、会社が働き手に休業手当を支払う費用を支援する雇用調整助成金を申請するつもりはないという。

 

オーナーとは形式的には業務委託契約を結んでいる。

報酬は、基本給プラス歩合給だ。

営業日(月曜日から土曜日)や営業時間(19時30分から24時)がオーナーに指示されていることなどから、実質的にはオーナーの指揮命令下で働いている労働者といえる。

 

ママの相談は自分は休業下でどのような法的な保護を受けられるのかということであった。

事業主は、ママは個人事業主だから労働基準法の定める休業手当の対象とはならないし、休業手当を払うつもりはないという。

 

休業手当を受け取れない人が直接ハローワークに申請して受け取れる給付金が新設されるとのことだが、その場合、形式にせよ、労働契約ではなく業務委託契約が締結されていることが支障となるおそれがある。

また、実質的には労働契約であると解されることから、フリーランス(個人事業主)として持続化助成金の申請をするのも、ハードルが高そうだ。

 

形式は業務委託契約、実態は労働者であるいう働き方を強いられている者は少なくない。

今回のコロナ禍は、制度の狭間にあり、労働法の保護から排除された働き手の無保護状態をより顕在化させたといえる。(直井)

 

 

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☆コロナ対策の交代勤務制と賃金☆

居宅支援事業所で働くケアマネージャーから相談があった。

コロナ対策として人員を2班に分けて2交替の勤務体制をとることになった。

公休ではない非出勤日の賃金の取扱いについての不満である。

事業者は非出勤日には休業手当として通常賃金の6割相当額を支払うという。

 

しかし、ケアマネとしては、担当する利用者の人数は変わらないことから総体としての業務量は減少するわけではないのに、総体としての賃金が減額になることに納得できない。

同じ業務量を半分になった出勤日数でこなすため、出勤日の労働密度が倍増している。

さらに、非出勤日であっても、担当する利用者にかかる連絡がある。

 

法的にいえば、非出勤日に在宅勤務として勤務の実態があれば、10割の賃金を支うべきである。

非出勤日は全くの自由利用であり使用者の指揮命令の実態がなければ、休業手当として平均賃金の6割以上を支払えば、労働基準法26条はクリアーすることになる。

 

件相談者は出勤日にサービス残業が発生していることも不満であった。コロナ騒ぎのどさくさに紛れてのサービス残業は要注意だ。(直井)

 

 

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☆コロナ便乗の出勤停止?☆

NPO法人の運営する売店の販売員として働いていたところ、顧客対応上のトラブルから3か月間給与1割減の減給処分とともに謹慎として自宅待機を命じられたとの相談があった。

相談者は自分にも非のあることから減給処分は受け入れるつもりである。

問題は自宅待機である。

 

折からのコロナ騒ぎのためもあり売店は当分の間閉められることになった。

自宅待機は売店再開までの期間とし、減給は売店再開以降の3か月間と言い渡された。

使用者は「自宅待機」期間中の賃金を支払うつもりはないようである。

 

使用者のいう謹慎としての「自宅待機」の意味は分かりにくい。

賃金が支払われないことからすると懲戒処分のひとつとしての出勤停止処分とも解される。

この場合、減給処分との併科ということになる。

 

懲戒処分の併科が適法とされるためには、①就業規則に2つ以上の懲戒処分を課すことがあるとの規定があること(「就業規則上の根拠」)と②併科しなければならないほど処分対象行為が重大・悪質であること(「処分の相当性」)の2つの要件をクリアーすることが求められる。

本件についていえば、売店再開までという不定期の出勤停止処分が従業員の立場を著しく不安定にするものであることから、「処分の相当性」の要件をクリアーすることは困難である。

 

他方、自宅待機命令が懲戒処分としての出勤停止ではなく、コロナ騒ぎの影響で販売が減るなどの事情からの休業だと解する余地もある。

労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない、と定めている。

「使用者の責めに帰すべき事由」とは、不可抗力以外の場合と厳格に解されている。

 

すなわち、不可抗力とは解されない休業の場合は、使用者は休業手当の支払い義務を負うことになる。

また、緊急事態宣言の発令による休業であってもそれだけで不可抗力とは解されるわけではない。

したがって、販売不振がコロナ騒ぎの影響であっても使用者は休業手当の支払いを免れることはできない。(直井)

 

 

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