パワハラを受けていると、美容師からの相談があった。
相談者は美容院でスタイリストをサポートするアシスタントとして働く女性である。
パワハラ行為者は男性のスタイリストである。
スタイリストがアシスタントにちくちく発するいやみをめぐり、言い争いに発展した。
スタイリスト曰く「アシスタント同士は勤務時間中話しをするな」、「自分は水すら夜まで飲めないぐらい働き詰めなんだから、その間、アシスタントも水を飲むな」「スタイリストの売上げからアシスタントの給料を払っているのだから」
これに対しアシスタントが反発して、「あなたにそこまでいわれる筋合いはない」と言い返したところ、スタイリストは「オーナーにいって辞めさせてやる。」と強く反撃した。
スタイリストは即座にオーナーに電話をし、あのアシスタントとは一緒に働けない、アシスタントを辞めさせろ、アシスタントが辞めないのならば俺が辞めるとすごんだ。
他方、アシスタントはオーナーにスタイリストの暴言を伝え指導を要請した。
俺をとるかアシスタントをとるか、とスタイリストにすごまれたオーナーはスタイリストの側についた。
オーナーはアシスタントのシフトをこれまでの週4日から週1日に減らしたうえでスタイリストの休みの日のみを勤務日に指定するようなシフトの変更をアシスタントに伝えた。
スタイリストは、オーナーから美容室の場所の一部を借りてその売り上げをオーナーと折半する契約を締結して働く個人事業主である。
アシスタントはオーナーと労働契約を結び時給1000円で働いているシフト勤務のパート従業員である。
立場の違う労働者同士の諍いといえる。
スタイリストは、収入が売上げに直結していることから、働き詰めの状態に追い込まれている。
スタイリストもオーナーとの関係では弱い立場の労働者といえる。
収入の保証のないなかで働き詰めを強いられる弱い立場の労働者がより弱い立場のパート労働者をいじめる構図がそこに見えてくる。
働き方の多様化による労働者の分断が生んだ闇である。(直井)
「フリーランス専用保険 報酬巡る訴訟費 補償」の見出しのもとに以下の記事(8月17日「日本経済新聞」)を目にした。
「損害保険ジャパン日本興亜は特定の組織に属さず働くフリーランスが企業から報酬を受けれとれなかった際、弁護士費用を補償する保険の取り扱いを8月中に始める。・・・保険によって誰でも安心して働ける環境作りを後押しする。・・・報酬の支払い遅延や一方的な減額、不払いなどの際に訴訟費用を保険金で賄えるようにする。契約者が弁護士と電話で相談できる窓口も用意する。保険金50万円の契約で年間保険料は5千円から。」
この記事の紹介する弁護士保険は、労働組合が組合員に提供しているサービスの一部を民間の保険で代替するものといえる。
労働者は使用者との交渉力の違いを労働組合という集団をつくることによって補う。
賃金切り下げ、残業代未払いなど使用者の不当・違法な取り扱いについても組合が窓口となって交渉する。
個人事業主として働くフリーランスには一般的には労働組合を利用する仕組みがない(個々の働き方によっては労働組合法上の労働者と認められる可能性はあるが、現実にはまだ高いハードルがある)。
弁護士保険は、司法制度(弁護士)を使うことによって、注文主の不当・違法な取り扱いからフリーランスを護ることを目的としている。
弁護士費用のハードルを下げることによって、裁判制度を利用しやすくする仕組みといえる。
泣き寝入りすることなく、異議を申し立てる者が少しでも増えればと期待したい。(直井)